認知症の方の世界観について
今回は「認知症の方の世界観」について私が平成22年度に名古屋市認知症介護実践研修〔実践者研修〕の現場実習で取り組んだ課題についてのお話しです。
10年以上前の研修ですが自分なりに認知症ケアについて気づかされることがたくさんある研修でした。中でも現場実習で行ったものは今でも認知症ケアの基礎となる部分つながる事だと思っています。
是非読んで頂きたいです。
part①とpart②に分けてお伝えします。
「認知症の方の世界観part②」はこちらをどうぞ!
(当時の報告書の文章を抜粋してお伝えします。10年前の私なのでツッコミどころが満載かもしれませんがお許しください)
課題「利用者同士の人間関係を円滑にするために職員がどのように関わるか」
なぜその課題を取り上げようと考えたか(きっかけ、状況、目的等)
・認知症の方は環境の変化や雰囲気にとても敏感である。認知症の方をケアするために職員はその方の世界を知り。職員の関わりが利用者にどのように影響するのかを考えてケアする必要がある。
利用者はカーテン1枚を隔てた空間で他の方と生活をしている。
身体介護も大切だが「心のケア」の部分にも目を向けて認知症の方と「人と人」として向き合うことができる介護を目指していきたいと考えた。(報告書から)
という目的なのですが、実はこれには裏のテーマがありましてそれは「職員によって利用者への対応がバラバラ」だった。
それを何とかしたかったのです。
A職員が担当の日は利用者さんは1日を通してとても穏やかに過ごしているのに、B職員が担当の日はフロアーの雰囲気がざわざわして利用者さんに落ち着きがない。
という状況、みなさんの施設でもありませんか?
職員の対応の違いで利用者さんのその日の生活が気持ち良かったり、不快だったりと浮き沈みがあると安心した生活は送れません。
特に認知症の方はその場の雰囲気を敏感に感じ取っていると私の介護経験からそう思います。
ではどうしたらいいのか?
「Kさん、Sさんの密着取材」
ここからは私が実際に2人の利用者さんについてある日の日勤帯の様子を見させてさせていただいた内容から何を得たのかをお伝えしていきます。
Kさん、Sさんのアセスメント
まずは基本的なアセスメントを行いアセスメントシートを作成しました。
(ここでは詳しい内容はプライバシー保護のためはぶきます。)
Kさん、Sさんともに女性、年齢は2人とも90歳代、アルツハイマー型認知症、歩行はKさんは杖歩行、Sさんは独歩。
というお2人です。(みなさんの施設にみえる方でなんとなく近い方を想像してみてください)
Kさん、Sさんは同じ年に施設に入所されました。2人とも知り合いではありませんでしたが日中はデイルームや廊下の椅子などで隣同士で仲良く座って過ごされていることが多かったです。
午前中は2人とも穏やかに過ごされている事が多いのですが、午後のおやつ後になるとお互いに口調が荒くなり、時にはKさんが杖でSさんを叩いたりする事がありました。
ある日のKさん、Sさんの日勤帯の様子
午前中
・フロアーの長椅子にKさん、Sさんが並んで座ってみえ水分補給のジュースをのんでみえる。
2人の隣に座らせてもらい、「今の生活について何か困った事や思っている事を聞かせてください」と了承を得たうえでお話しを聞く。
2人とも特に困った事もなく気楽にくらしていると答えてくれました。生年月日に関してもおおむね合っており、年齢も「80歳位」とのお話しでしたが、
高齢の方なのでそこらへんは仕方がないかなと思います。
Sさんは旦那さんが亡くなられて1人暮らしが長かったと話されました。
Kさん、Sさんはお互いをどう思っていますか?
・仲良し
・近所同士
・どこで知り合ったかは知らない
・2人は似ている
というお話しでした。
午後
・デイルームのテーブルでおやつを食べられている。
・テーブルにはKさん、Sさんを含め6名程が座られて車椅子の方が4名程みえる状況。
・本日は歌の本がテーブルに用意されていた。Sさんは歌の本を見ながら他の利用者さんと積極的に歌われていたが、Kさんはあまり積極的には歌ってみえなかったが、
歌の本を渡すと「歌はいいよね」「ほがらかでいいね」と歌い出す。
・おやつが終わり他の利用者さんが排泄介助や臥床介助のためにデイルームから徐々に離れていく。
Kさんはデイルームにぽつんと座られて、「家に帰らせて」と言われる。「みなさんの方へ行きましょうか?」と誘っても、
「1人がいい」と言われうつむかれる。
Sさんは場所を変えて3人程で話をされていたが、しばらくすると「下へ降りたい」「家へ帰りたい」と言われ始める。
・午前と同様の質問をしてみました。
Kさんは、困った事はないが家へ帰りたい、生年月日は年号のみで年齢は57、8歳と言われる。
Sさんは、主人が鉄工所で働いている(ご主人は他界されています)、兄弟は9人(実際には3人)、生年月日は年号のみで年齢は42、3歳と言われる。
Kさん、Sさんはお互いをどう思っていますか?
・昔から知っている。
・一緒の部屋(実際は違う部屋)。
聞き取りを行ってのまとめ
・午前中は精神的にも認知的にもクリアーで笑顔も多くみられ、質問にたいしても比較的的確な返答がある。
・午後2人の周囲から利用者さんが徐々に減っていくと不穏になる。
・不穏になり始めると世界観が変わってしまう。
この現場実習から得られたこと
認知症の方はその時々で住んでいる世界が違う事がわかりました。
今回の実習では午前と午後で明らかな世界観の違いがみられました。
午後は年齢が2人とも50代と40代とお話しされていました。
2人にとって何らかの思い出(良くも悪くも)がある年代なのかどうかは分かりませんが現実の年齢とは違う年齢の世界にいるのだと思います。
認知症ケアの際に大切なのは「その方の世界観を知る」ことだという事をこの実習を通して学びました。
もしかするとその方の世界観は数分で違う世界観に移ってしまうかもしれません。
子育ての大変な時期の世界観にいる利用者さんに「もうお子さんは独立してそれぞれの生活があるんですから」という声かけが通じるでしょうか?
介助者は利用者さんが今どんな世界にいるのかを見極めて、時には「演者」となりその世界に入り込んでコミュニケーションをとることも必要なのではないかと思います。
例えば夕暮れ症候群のように夕方近くになると、
「お父さんが帰ってくるからご飯を炊かないと」と言ってそわそわ落ち着きがなくなるご利用者さんは時々みえます。
その方の世界は主婦真っ最中の世界にいるのでしょう。
その方に「もうお父さんは亡くなっているんですから、夕食行きますよ」なんて声かけをしてもその方にとっての現実は「主婦真っ最中」なのですから結果はおわかりだと思います。
まとめ
認知症ケアはとても奥が深いです。
世界観を知ったからと言ってすぐに対応できるとは限りません。
ですが、「対応の幅」は格段に広がると思います。
そのためには「利用者さんを知る」事が大切です。
これがアセスメントです。
そしてアセスメントで得られた情報を介助者同士が共有し出来る限りその方に添ったケアを介助者全員が提供することで安心して生活を送って頂くことが出来るのではないでしょうか。
介助者にとっても世界観を知ることで「今この方はこの世界にいるから少し時間をおこう」とか「声かけを工夫してみよう」
という思考が働けば無理にその場の現実を押し付けることなく介助者のイライラも別の方に向き軽減するのではないでしょうか。
認知症ケアはまさに「試行錯誤」の連続ですが、そんな中で「これいいじゃん!」という策が上手く行った時はとても嬉しいものです。
プライスレスな感動にどれだけ喜べるかが介護職の魅力なのではないでしょうか。(本当はもう少しお給料を上げてほしいですが・・・)
今回は長めの記事でしたがここまで読んで頂いてありがとうございました。
何かのお役に立てれば幸いです。
次回は「認知症の方の世界観 part②」として、2人の日中の様子から得た情報をもとに対応策を考えそれを実際に職員の方に実践してもらった結果をお伝えします。
次回もお楽しみに!
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